たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

無気力に細切れに4

 ふぉっ、ふぉおっ、ふおおおおっ!(モンエナをキメる)

 

 ――翌日、休み明け初日の朝。
「櫻子、いつまで寝てるの。今日からもう学校でしょ」
「もう少しー……?」
 呆れたような母の声にぼんやりとした意識で返事をした櫻子だったが、ちらりと時計を見ると慌てて跳び起きた。
「げっ! 朝ごはんとか食べてる時間ないじゃん!」
 時計の針はいつも家を出る時刻の十分前を指していた。
 できる限り急いで着替えて居間に向かう。母の顔を見るなり文句を言おうとしたが、そんなことをしている時間もない。
「あーもー! なんで? なんで?!」
 騒がしいことこの上ない。櫻子はテーブルの上に出ていた朝食からすぐに食べられそうなものを少しつまみ、自室にとって返した。その辺にあるものをぽんぽんと鞄に放り込む。急いで部屋を出ようとしたその時、ふと昨日出かけたときに持って行ったバッグが目に止まった。
「ああ、忘れてた。あれ持っていかなきゃ」
 急に昨日の箱のことを思い出した櫻子は、それを鞄にしまうと今度こそ部屋を後にする。
 今の今までどうして忘れていたのだろうと彼女自身不思議に思った。結局待ち合わせのときに少し見せたきりでずっとしまいこんでしまっていた。それこそ頭のどこか、箱の中にでもしまわれてしまっていたかのように。
 しかし、そんなことをじっくり考えている時間はない。
「いってきまーす!」
 玄関から一歩足を踏み出すと今日もすこぶる良い天気で、すでに汗ばむような暑さだ。櫻子が門から出るとしかめっ面ながら当然のように向日葵は待ってくれていた。
「ちょっと遅いですわよ……って、なんて頭してますの!」
「え……ああ、ちょっと寝坊しちゃって」
 櫻子は興味なさげに自身の髪を弄った。
「だからってそんな……ちょっと櫻子、後ろを向きなさい」
「えー、初日から遅刻しちゃうじゃん!」
「いいから! 言うとおりになさい!」
 強引な向日葵に櫻子は何やらぶつぶつ文句を言ったが、彼女はもう櫛を手に構え、準備万端といった様子である。
「まったく……綺麗な髪をしてるんだからもっと……」
「だってー」
 そう言いつつも珍しく簡単に大人しくなり、くるりと後ろを向いて黙って髪を梳かれている櫻子。そんな、らしくない態度を少し疑問に思った向日葵は手を休めることなく訊ねた。
「だって、なんですの?」
「その……」
 彼女はちょっともごもごと何か言いかけた後、少し間を空けて答えた。
「昨日は……待たせちゃったから」
「そう……ですか」
「…………」
 沈黙が訪れる。ふたりは揃って何かやりすごしたようだった。

「……できましたわよ」
「あ、ありがと」
 結局その後も言葉を交わすことはなかったが、梳き終わるころには明るい空気が漂っていた。
「ほら! 本当に遅刻してしまいますわ! 櫻子の世話をして遅刻なんてことになったら目も当てられませんもの」
「そ、そんなの向日葵が勝手に……!」
 言葉の続きは呑みこみ、櫻子は素早く向日葵の手をつかんで歩きだした。
「え、ちょっと櫻子?!」
「急がないと、遅刻しちゃうんでしょ!」
 昨日とは逆に、櫻子が先導して足を進める。夏も終盤戦だというのに今日も暑い日になりそうだ。ふたりは晴れ晴れとした面持ちで高い空を見やっていた。