無気力に細切れに12
人ひとりが横になることもままならない正方形の板間、その角に簡素な皿に立てられた蝋燭の明かりが細かく揺れていた。部屋、といってよいのだろうか。何せ調度品などはもちろん、窓すらない。壁も床と同じ木の板で仕上げられている。わずかな光源で窺い知ることはできないが、天井もおそらくそうなのだろう。
不思議なその空間の中央に、黒い髪の華奢な少女が俯いて座していた。部屋には浅く速い呼吸の音が幽かに響くのみで、他の音は一切聞こえない。隔絶された箱の中といったような、まるで異界にいるような、そんな異常な雰囲気に満ちていた。
部屋には出入り口として大人が屈んでぎりぎり通れるほどの小さな戸があるのみで、今はそこも外から施錠され、密室となっていた。
「早くなさい。いつまでも出られませんよ」
戸の外から抑えられた、それでいて気道を掴み絞め上げるような威圧感を伴った声がかかる。少女は途端にその細い肩を戦慄かせたが、それに返答をすることはしなかった。
そして、しばらく荒れた呼吸を整えるように細く長く息を吐いた。そのまま少し息を止めた。少女の手に携えられた白刃に炎の色が一瞬きらめいて消えた――
鍵の開く音、次いで戸の開く音と腕を掴まれる感覚。意識の水底は少女を受け止め、仄かに揺らいで凪いでいく。
陽が昇るより随分早い時間。少女が左手で首を押さえ、掛け布団がめくれあがるほどにもがいている。次第にその体は奇妙に屈して硬直しはじめ、わずかに呻いた。ややあって、仰向けに真っ直ぐ体を伸ばすと、目を見開いて大きく息を吸い込む。黒く長い髪が布団に艶めかしく散らばっている。酸素を求め、胸が大きく上下する。左右の手でそれぞれ布団を強く握りしめている。
体の自由が利かないのか、しばらく少女はそのまま虚空を眺めて荒い息を吐いていたが、ようやく目を伏せて、口を閉じた。乱れて額の覗いた前髪を少し整え、腕で顔を覆う。
毎晩とはいわないまでも、幾度も体験した目覚めだった。
首を押さえていた手のひらをじっと見つめる。
「……」
静かに手を握り込んで、少女は体を起こした。膝を体に引き寄せて顔を伏せる。布団から抜け出た少女の体が冷えていく。
少女は少しそうしていたが、小さく嘆息してから乱れた寝間着を整えると、布団を上げ、部屋を後にした。
なんと言ってみようもないワンシーンでしかないのですが、なんだか自分も疲れちゃって……という、まさに今書き下ろしのシーンなのでした。