無気力に細切れに15
生徒会室を飛び出した櫻子は、西垣教諭の車に乗せられて病院へと駆けつけたが、向日葵は既に息を引き取っていた。
櫻子は周囲の涙を請け負ったかのように散々泣き喚いた後、なんとか引き離され、直接家に送り届けられると、部屋に閉じこもってしまった。
他の生徒会室にいた面々は皆一様にショックを受けていたようだったが、中でも一番取り乱していたように見えた綾乃が静かに、しかし頑なに「授業に行きます」と言うので、他のメンバーもそれにならって五時間目の教室へ向かった。
放課後になって、皆なんとなくふわふわとした足取りで三々五々分かれ、帰路についた。少しでも会話をすればそれを思い起こさずにはいられない。暗黙の裡に思考を閉ざすためには仕方がないことだった。
いつもと変わらない道を結衣はそそくさと、まるで機械のように一定の歩調で歩みを進めていた。周りは見えているようで見えていない。事実がただ認識されるだけといった不思議な感覚だった。まるでその認識された事実が感情を呼び起こす前で寸断されているかのようだ。周囲の状況を最低限、それこそ機械的に判断し、赤信号では止まり、道の端を歩き、そのまま何事もなく帰宅した。
そして玄関に足を踏み入れてからようやく、この無人の部屋に帰ったところで何の安らぎも得られないことに気がついた。しかし、だからといって何もする気が起こらない。
それでも何かをしていないと圧しつぶされてしまいそうに感じた結衣の脳裏にふとあかりの顔が浮かぶ。あかりはどうしているのだろうか。
――そうだ、あかりはあのことを知らないんだ。
何分急なことで、結衣にもこれからどうなるのか何もわからないのだが、せめてその事実だけでも伝えようと思った。
所詮は平静を保つための利己的な行為であると、結衣の中にわずかに残る冷静な部分ははっきりと告げていたが、それに比して体は上手く言うことを聞かない。震える指で携帯電話を操作し、何度か間違えながらもなんとかあかりの携帯に電話をかけることに成功した。しかし中々電話は繋がらない。業を煮やした結衣は自宅の電話にかけ直した。するとすぐに電話は繋がった。電話口には姉のあかねが出た。
「え、それは……そんなことって……」
知っている限りの事実を話したところ、当然と言えば当然だろうが、あかねはひどく動揺していた。
「また、何か連絡があればすぐにお伝えします」
「あ、待って! その……知ってれば教えてほしいんだけど」
おそるおそるといった風に、あかねは訊ねた。
「向日葵ちゃんって、どんな症状だったか……どうして亡くなってしまったのか、聞いてる……?」
「いえ、すみません。詳しくはわからないんです」
「そっか……」
何もわからない。結衣は率直にそう答えた。しかし、その死因は見舞いに行っていた櫻子やその今際に立ち会った母親はもちろん、診断した医師にさえ不明であった。そのため、あかねの求める解答を出せる者は、そもそもこの世に誰もいなかった。
最後にお大事にと伝えてほしい旨を話し、電話を切る。
もうこれで役割は終えたとばかりに気の抜けた結衣は、急に輪郭のぼやけはじめた世界を眺めて思った。
――早くいつものように、みんなと部室で……。
某解答編はいいかなって思うので、もうそろそろ終焉という感じですね。
かわいそう。かわいそう。