くまみこのはなし13
13.
痛い。寒い。冷たい。
ぼんやりとした意識の中で原始的な感覚が蠢く。
ほの白い光が上方に浮かんでいる。それはゆっくりとした動きで下まで動くと、徐々に範囲を拡大していく。
いつしか水の流れる音が違和感をもって聞こえはじめる。
そして白い光の中、焦燥感とともに曖昧な形に像が結ばれる。
細くて恐怖感を煽る黒い糸のようなものが高速に動いて何かに巻き付く。
その隙間からこちらを覗く異形の目が――
「ッ!!」
意識を取り戻した瞬間、呼吸に合わせて襲う胸の痛みに息が詰まる。
呼吸を整えて浅く浅くしながら辺りを確認しようとするが、何も見えない。
手は前に拘束され、横向きに寝た状態。足首も拘束されている。
さらに少し動くと土の臭いを感じる。地面に直接敷かれた布団に寝かされているらしい。
また、どうも裸か、それに近い格好になっているようだ。どおりで寒いわけだ。
上半身が全体的に痛い。少し体を捩るだけで激痛が走る。肋骨が折れているのかもしれない。
痛みを紛らすために、何故こんなことになっているのかに思いを馳せよう。
先程おぼろげに見ていた夢、のようなもので見た、あの髪から覗く視線が鮮明に思い出される。
あれはなんだった? 冷静に思い出せ。
あれはおそらく、ヒトだ。
いや、そうではない。そんなことはわかっている。
ナツは言葉を話していた。だからあれは少なくとも人間ではある。当たり前のことだ。
男性? 女性? ――わからない。中性的な体つきをしていた。
中性的というより、ちぐはぐな体つきだった。
一部は女性で一部は男性。たとえば半陰陽のような――「あっ……!」何気なく動かした腕が何かひやりとした物に触れ、思わず声が漏れてしまう。声は思ったより大きく、辺りに反響した。ある程度広い空間らしい。
出してしまった声に対して何もないことを確認してから、おそるおそる先程触れた物体を探ってみる――鉄の棒か何かだ。地面に直接、垂直に刺さっている。手をずらしていくと、それは何本も並んで刺さっているようだった――これではっきりした。
ここは当初から目指していた「おしおき穴」の中だろう。
こんな形で訪れてしまったことはなんと言うべきか、少なくとも喜ばしい状況ではないが。
ああしかし、一体今は何時なのだろう。あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
わからないまま痛みに耐え続けることはつらく恐ろしい。その感情を塗りつぶすように、再び元のとおりの姿勢に戻り、布団を被って思考を巡らせた。
「こりゃ、神隠しってもんだよね」
まだそんなことを呟く余裕すらあった。
つづく