たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

無気力に細切れに7

 きっと、そろそろ死ぬんじゃないかな?

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 それからしばらく経って、箱を弄る京子がだらりと両腕を卓上に投げだして泣き言を言う。
「あーダメだー。これ、壊れてるんじゃないの?」
「そんなわけないだろ。何回かはちゃんと動くじゃないか」
「だってさー」
 どうやら早くも京子は飽きてしまったらしい。箱をテーブルに置くと伸びをするように畳に倒れ込み、読みかけていた漫画に戻ってしまった。呆れた様子の結衣だったがこうなってしまうと何を言っても無駄だとわかっていた。
「まったく京子先輩は飽きっぽいんですから」
 ちなつは遠慮なく指摘する。「なんだよー」と少し不満げな様子の京子だったが、結衣の予想どおり完全に興味は漫画へと移ってしまったらしかった。
「じゃあさっきの話のとおりにやってみますね」
「ちなつちゃん頼んだ!」
 流れで今度はちなつが名乗りを上げる。先程までの意見の出し合いについていけなかったらしい櫻子は、すっかり見学モードだ。

 そんな様子を見て向日葵は再び、京子と櫻子は似ているなと思い静かに笑った。

 

 大きな進展のないままに時刻は五時を大きく回り、陽もだいぶ傾いてきた。
「今日はもうそろそろ諦めないとだな。まさか、本当に難しかったとは……」
「そうですわね……もうそろそろ完全下校時刻ですわ」
「「えー」」
 途中から漫画に熱中してしまった京子と持ち込んだくせに終始見ているだけだった櫻子が不満の声を漏らした。
 あのあと、ちなつもしばらく弄ってリタイアし、もう一度いろいろと方針から考え直しているうちにタイムリミットとなってしまった。
 正式な部活でなくとも、完全下校時刻は守らなければ校内に閉じ込められてしまうし、各所施錠の確認もある。みんな忘れかけているが、部室もとい茶道部室は大っぴらに使って良い所ではないのだ。
「残念だったね……でも、あかり何回か動かせたよ!」
 最後に挑戦し、なんだかんだいって忍耐強く長時間弄っていたあかりが、そう報告した。
「でもこれ、手順をどうやって記録しておくんですか……?」
「う……確かに」
 ふと思いついたかのようなちなつの指摘は鋭いもので、結衣は小さく唸った。何せこの寄木細工の箱は隙間等をよく見なければ上下の判別もままならない。
「じゃあ、手順は絵に描いて残しましょう! 明日は何か描く物を持ってきますね!」
「え……あの……じゃあ、お願いできるかな?」
「はい!」
 ちなつの口から出た『描く』という表現に結衣は少し動じたが、ちなつには気にならないらしく「結衣先輩の為なら!」と後ろに付きそうなほどに快諾した。その横でちなつの明日という言葉を受けた京子は何か思いついたらしい。
「よーし、じゃあ当面ごらく部の活動としてこの箱の攻略を続けよう! みんなで協力して頑張るぞー!」
「いいですねー!」
「わぁいパズル、あかりパズル大好き!」
 京子の宣言は完全に思いつきのものだったが、即座にちなつとあかりが賛同した。「まあ、特にすることもないしな」と今日は頭脳担当だった結衣も乗り気のようだ。
「……良かったですわね、櫻子」
「うん。やっぱみんなで何かするって楽しいなー」
 櫻子は向日葵とふたりだけの秘密にしなくて良かったと思った。何より今日の向日葵は楽しそうだった。
 少し話した結果、箱はそのままの状態で部室に置いておくことになり、皆鞄を携え、部室を後にした。

 

 

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 作中でも言及されていますが、櫻子と京子のキャラが近しくてちょっと動かしづらい感じもするので、やっぱりカップリングで駆動させてしまう。結衣が便利キャラすぎてこわい。道具って感じですよね。結衣=機械説――当初からの見解でしたね。


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