たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

くまみこのはなし5

5.

 

 連休初日、早朝に家を出た私は途中休み休み高速を下り、目的地最寄りのインターチェンジを下りたのが日も傾きはじめた頃になってからであった。

「んー……腰が痛くなっちゃったなー」

 自動二輪での旅としては少々厳しい――いや、人によってはミニバイクとかでも日本一周したりするのだからそんなことは言っていられない。

 単に私が長距離運転に慣れていないだけのことだ。

 少し体をほぐすようにしながら国道を流していると、道の駅の看板が見えてきた。

 この辺りで一度休憩をとろう。

 

『道の駅 よってけ』

 

――面白い名前だ。

 でも中は普通に農産物の直売所があったり軽食が売っていたりと普通の道の駅だった。

 確かこの辺りは「田村村」というんじゃなかったか――いや、ここも合併で「田村地区」だったか。なんにせよ『道の駅 たむら』とかじゃいけなかったのだろうか。

 しばらく休ませてもらい、これからの行程を確認する。

 普通に考えて今日はこちらに泊まる予定なのだが、できれば件の熊出村で宿を探したかった。しかし、ネットで調べてもなかなか情報はない。存在しない可能性が大である。

 そうなれば町の方の市街地にある適当なホテルに行ってみるしかないかもしれない。でもとりあえず一度どこかで宿屋の有無を訊いてみようと思っている。

 服に関しても、必要最低限しか持ち合わせがない。思ったより寒いので、何か適当に着るものを見繕いたい。こちらに関しては国道沿いに何かあるだろう。あとは――

「あだぁ、『熊出村』行ぐな?」

「え」

 不意に腰の辺りを雑に掴まれると、しわがれた大声で話しかけられ、体が硬直した。

 腰の曲がった老婆がビニール袋を片手に私の服を掴んでいる。そして私の困惑などお構いなしにまくし立てた。

「熊出村はぁ――呪われておるんじゃて――」

「えーと、の、呪い……?」

「近づいてはならぬ……『ケモノ』に憑かれておるからなぁ!」

「き、気をつけます」

 突然の剣幕に、それ以上何も答えることができない。

 そのまましばらく目を伏せていると、強い力で掴まれていた服は放され、老婆はじりじりと遠ざかっていった。

 辺りを見回してみたが、ほかに人はいない。目的地に着く前に変な面倒事に巻き込まれたかとひやひやしたが、これ以上何も起こらなそうなことを確認すると、再びバイクに跨り、逃げるようにその場を去った。胸に不快感がわだかまるというよりむしろこの旅の趣旨からすればそれはスパイスですらあったのだが。

 

   *  *  *

 

 国道をしばらく走ると、運よくファストファッションの店舗を見つけることができた。迷わず入店する。

 いやしかし、こんな所にもあるのか……このファッションセンターは。うちの近くにもチェーンの別店舗があるのだ。なんだか安心してしまう。

 そんな気持ちが少し顔に出てしまっていたのだろうか。商品を物色していると、不意にほかの客と目が合い、わずかに笑いかけられた。

 青い制服に赤い紐タイ、黒い髪を左右に結んで前に垂らした大人しそうな少女だった。

 地元の学生だろうか。一瞬話しかけてみようかと思ったが、躊躇ったわずかな間に彼女は違う棚へと歩いて行ってしまった。

 私は仕方なく本来の目的に意識を戻す。知らない土地で凍えたくはなかった。

 無難なデザインの服を手に取ってレジに向かう。こういうのはあまり悩まない性質だ。

 最後まで勝手知ったる安心感のある空気に包まれながら退店したところで、先程目の合った少女が自転車を押しているところに遭遇した。

 普段あまり社交的な方ではないが、旅先ではそんなわけにはいかないこともある。

 少し意を決して、彼女に話しかけてみることにした。

「すみません。ちょっとお伺いしたいんですけど」

「ひ、え、あ……えーと」

 急に話しかけたのは悪かったかもしれないが、そんなに怯えるほどだろうか。

 こちらの緊張感が急激に引いていく。

「急にごめんなさい。ちょっと、道の確認がしたくて……地元の方ですか?」

「は、はい……」

「すみません。ありがとうございます。県外から来たんですけど、ちょっとこの辺電波が弱くて携帯の電池も心もとなくて……。えーと、熊渡谷の方……熊出村に行きたいんですけど、そこの橋を渡るので合ってますか?」

「え?! うちの村に来るんですか? な、なんで……」

 村の名前が出た瞬間、直前までの様子から打って変わって鋭い反応を示した少女だったが、自身でそれに気付いたのか、最後の方は再び消え入りそうな調子となっていった。

――村人か。ちょっと顔見知りになれたことは好都合かもしれないな。

 とにかく、怖がらせないように優しく話しかける。

「テレビでゆるキャラのナッちゃんを見て、ちょっと調べたら綺麗な村だなーと思いまして」

「ナツ……な、ナッちゃんのファンの方ですか?」

「ファン……そうですね。あと村の方にも興味が湧きまして」

「えー……そうなんですかー……」

 心底驚いたのか、少女は少々失礼な反応を見せたが、流すことにした。「ほ、本当にそんな人いるんだ……」などという声も聞こえるが気にしない。

「そうそう、それで、ここで橋を渡るので間違いないんですよね?」

「あ、はい! あとはほとんど一本道ですけど……」

「わかりました。本当にありがとうございます。」

 急に話しかけて申し訳ない、と再度謝りを入れながら、少女に別れを告げた。

 駐車場から道に出ようというタイミングで再び少女の方に目を向けると、そのままの格好でまだそこに佇んでいる。

 あの極度の人見知りは地域性なのだろうか。そうだとしたら、先が思いやられることだった。

 

   *  *  *

 

「はー東京の方から! ご苦労なことで!」

「方面……ではありますけどね、東京は私の地元から見てもかなり都会ですよ」

「いやーーでも、この辺は見てのとおり、信じられないくらいクソ田舎でしょう?」

「の、長閑でいいと思いますけれど……」

 村の入口に個人商店を見つけたので飲み物やらを買いつつ話を聞こうかと思ったら、想像以上に話し好きなおばさんに捕まってしまっていた。

 さっきからこんな調子で自虐的に攻め立てられている。

 田舎に旅行あるあるではあるのだが、かなりのディスり方だ。

 それでいて、いくら話していても頻出の「都会の人じゃこんな所に住めない」という話にはならないな、などとぼんやり思っていると、「おばちゃーん」という声とともに、別の客が引き戸を開けて入店してきた。

「ん? あれ、どちらの方?」

「よしおちゃん! この子ね、東京から来たんだって!」

「へぇー! まさか、観光ですか?!」

「え、あ、はい。そうです。あと東京ではなく……」

「おおおお!! いやすごい! どうしてうちの村に?!」

 初対面の男性が入ってくるなりハイテンションで矢継ぎ早に問いかけてくるので、面食らってしまう。話し好きのおばちゃんの比ではない。

 先程会った少女はやはり、大人しい子だったのだな、などと思いながらも、彼の会話のペースに呑まれ、いつしか「村を案内しますよ!」などという話になっている。

「いいんじゃない? よしおちゃんよりこの村に詳しい人いないからねぇ」

「この村で一番、この村のことが大好きですから!」

 勝手に話がまとまっている。

 村に詳しいというならこちらとしても願ったり叶ったりではある。

 ただこうも強引に若い男性に――しかし人の良さそうなおばさんもこう言っているわけだから信頼できる人なのだろうか。でもそもそもこの人は何か用があってお店に来たんじゃないのか?

 いろいろと考えは巡ったが、具体的に口を吐いて出ることはなかった。

 適当な相槌しか打てないままに、背中を押されるようにして表に出る。

 去り際におばさんにお礼を言おうと振り向いたが、すぐ後ろにいたはずのその姿が消えていた。よく見れば、店の奥のカウンターにその姿はあったのだが、先程までにこにこしていたはずのその表情は固く、黒電話の受話器を片手にそそくさとダイヤルを回している。

 そんな電話まだ現役なのだなあ、とそのときは曖昧に流してしまったのだった。

 

   *  *  *

 

 連れて行かれたのは村役場の応接室であった。

 連れて行かれたとは言っても、私は単車だし彼は軽自動車だしということで気楽に後を付いていっただけではあった。

 ちなみに、入口には急ごしらえのような「北島郡吉幾町 熊出出張所」との立て看板が掲出されていたが、途中の案内板や建物内の様々な表現において当然のように「村役場」や「熊出村」が使われている。

『本物』の気配に少しだけ背筋が凍った。

「すみませんねーせっかく来ていただいたのに、観光案内所みたいなものはなくて」

「いえ全然……でも、役場の職員さんだったんですね。業務中にすみません」

「いいんですよ! これもわくわく観光課職員としての業務にほかなりませんからね!」

 任せてくれ、と言わんばかりの自信たっぷりな様子だ。

 しかし、こんな待遇を受けるとは、やはり観光客は相当珍しいのだろうか。

「ああ、すみません! 申し遅れましたが、私、熊出村わくわく観光課の雨宿良夫と申します!」

「えーと、私は山村と言います」

「おおお! いいお名前ですね!」

「いえいえそんな……でも、名は体を表すといいますか、長閑な山村が好きで――」

 それからしばらく、村談義で盛り上がった。

 私としてもあまりこの話題で話すことがなかったので、少々調子に乗ってしまったところがあったが、それ以上に雨宿さんは興奮しているようだった。

「じゃあ、村が好きでここに? いや……村なんてその辺にいくらでもありますよね……あれ、どこからいらしたって話でしたっけ?」

 先程はぼかしていたが、ここで具体的な地名を伝えてみる。

 雨宿りさんはやはりというべきか、強烈に食いついてきた。

「えっ! クマって熊ですよね?! 熊が付く地名なんですか!! それで山村さん?! これは無関係なはずないですよ!」

「あはは、私もそう思います」

 とっておきの隠し玉的な気持ちでいたが、あまりに食いつくので可笑しくなってしまった。

 熊出村のことを調べているときに、近くを走る鉄道の最寄駅である『熊渡谷(ゆうとだに)』の文字列を見て思いついた取り入り方だったが、さすがに効果抜群であった。

「へー……そうなんですねー……いやあ、本当に奇遇だなあ……!」

 面白い偶然に、未だに浸っている様子の雨宿さんだったが、思い出したように両膝を叩くと、「なんでこの村にいらっしゃったかって話でしたね」と話題を戻した。

「はい。その関係での対応は多いと思いますけど、私もゆるキャラの『ナッちゃん』を見まして」

「ああ! いやーさすがに1位を取ると違いますねぇ!」

「おめでとうございました」

 一応、お祝いの言葉を述べておく。雨宿さんは「ありがとうございます!」と快活に答え、それから「しかし、ついにナツ目当てで来てくれる人が……」と呟いた。

「『ナツ』、というのはナッちゃんの本名なんですか?」

「え? ――ああ、そうなんです。『クマ井のナッちゃん』。クマ井が名字でナツが名前――って、設定なんですよね」

 そう答える雨宿さんに、少し今までとは違う慎重な態度を感じた。

 さらに彼は小声で「まあ裏設定なんですけど」と歯切れ悪く話しつつ、後頭部を弄った。

――裏表のない、わかりやすい人だなぁ。

 熊出村が閉鎖的な山村であることは間違いないが、殊、彼に関しては私にとってかなり都合のよい存在であるようだ。

 私が微笑むと、それに気付いた彼も悪戯がバレた子供のように笑みを浮かべた。

 

 

つづく

くまみこのはなし4

4.

 

 単なるクマとして生活をしていた頃は、それこそ自分の興味のあることばかりに時間を割いてきた。一番の関心事はまちに係わること全般であることは揺るがなかったが。

 好き勝手やらせてもらっている中で、少しでも意味のあるクマ生(じんせい)にしていこうという気持ちが芽生えることは必然と言えた。

 意味のあるクマ生(じんせい)とするには、この時代を生きるこの立場のボクとして、まちの存在を第一義に据えつつ、どのようにしていったらよいのか。

 そのためのちょっとした自己流の哲学、簡単に言えば自分ルールもしくは生きる上での目標を定めることにした。

 

  • まちが幸せになること
  • まちが幸せになるために、村の存続を図ること
  • 村の存続を図ることに際し、この代で可能な限りしがらみを取り除くこと
  • これらを完遂するため、可能な限り自分を保つこと

 

 ひとつめは当然のことだ。

 ふたつめは、これは本人の意志が絡むところであるが、実際問題、彼女が熊出村以外の一般社会で生活をしていくことは困難だろうと思う。それは彼女をそのようにしてしまった村が全体で護るべきだ。

 3つめは、日本社会の成熟と巫女の代替わりのタイミングからして、今しか穏便には為し得ないことだと思う。

 高度に情報化され、あらゆる秘匿が困難な社会。しかし一方では、インターネットの力をもってすれば地理的な不便さを多少埋めることもできる。安定した経済基盤が形成されれば、村を出ていく必要がなくなるのではないか。

 代替わりのタイミングとはすなわち、まちの祖母である先代巫女のフチ、そこからまちまでの間が一世代抜けている現状のことだ。心根の良くない言い方をすれば、フチさえ不在となれば新しい風を吹かせやすくなるということを意味する。もちろん、暴力的に訴えようなどという考えはない。あくまで時が来れば「自然とそうなる」ということだ。

 4つめは一応。フチが亡くなりでもすれば名実ともに村の巫女として唯一の存在となるまち。彼女を近いところで庇護してくれる存在としては、ボクが消えてもよしおがいるわけだけど、彼はまちの幸せを必ずしも優先してくれない、かもしれない。まちより村という彼の考えは、一方でボクの狭くなりがちな視野を補助してくれるのでありがたくはあるのだけれど。

 誰かに指摘されるまでもなく、ボク自身、まちほどには長く生きられないことはわかっている。それまでにはまちをどうにか立派な巫女として成長させたい。もし、彼女が一度村外の高校・大学に通いたいというのであれば、その後しっかりと村に戻ってくることを見届けるまでは、頑張って生きてみようと思う。

 そんなわけでこの現代社会に適応するためにインターネットの知識をはじめとした新しい技術や流行を把握していくことに努めている。それはクマとしてだけでなく、村のマスコットキャラクターとして少し社会に出るようになった今、より実体験を伴った理解ができるようになった。

 理解が深まったことで確信に変わったことがある。

 熊出村は、そのまま時代に取り残されて行ってしまえば、確実に近い将来破綻してしまう。

 よしおの進めたい地域振興は村の存続という目標に合致する。応援しなければならない。

 マスコットキャラクターとしてゆるキャラの大会にも出場するし、地方テレビに出演もする。SNSでアカウントも作るし、動画サイトに自作の動画を投稿したりもする。

ボクがそういった露出をしていくことを良く思わない村人もいるだろうとは思う。

 それでも、ボクの活動に対してクマ井の中枢機関として君臨する「婦人会」だって承認しているし、フチも認めていることだから表立った文句は出てこない。

 新しい風を吹かせていかなければ。

 ああしかし「婦人会」、「クマ井」の代表。長としてのボク――

「クマ井もな……」

「お悩み中か? まちがいるところではあんまそういう話するなよー?」

 つい口をついて出てしまった考え事を、タイミング悪く現れたよしおに拾われてしまった。「ノックぐらいしてよ」と抗議の声を上げたが「もちろんしたさ」なんて簡単に返されてしまう。

 時計を見ると正午を過ぎてしまっている。

 最近生活ががらりと変わって目まぐるしくなったこともあり、自室に籠ってゆっくりと考え事をと思ってはいたのだが、ちょっとゆっくりしすぎたようだ。

「まあ、よしおならいいけどさ……」

「オレとナツの仲だもんな――っと」

 手に持った紙袋を「よいしょ」と置くと、よしおは近くに腰下ろして柔らかい苦笑を向けた。

「ああこれ、また貢物ね。しかも今日は村外から! 『ナッちゃんへ』っていって届いたんだ」

「わ! そんなことあるんだね! 反応がこんな風に目に見えるとうれしいな……どれどれ……」

「伝票に精密機器って書いてあったから食べ物じゃないと思うぞ」

「そんなにボクは食いしん坊じゃないよ! ……あれ、これって」

 受け取った袋を開けると、中に入っていたものはあまり見憶えのない機器だった。しかし箱の背面を見て合点がいく。

「もしかしてモーションキャプチャとかに使うやつか? 流行ってるもんなー。配信、観てくれてるんだな」

「そうみたいだね……でもこれ、表情とかボクでも検知される、わけないんだよね」

「着ぐるみ脱げばいけるって思われてるんじゃないの?」

 そう言ってよしおは意地の悪い笑みを作った。

「まったくよしおはまたそういうことを……」

 そうは言っても本気で咎めるような気持ちはなかった。よしおもそれをわかっているようで、少々腹立たしい。

「わるいわるい。……それはそうと、クマ井のことでまた何かあったのか?」

 軽口を叩いていたよしおは一転して神妙な面持ちとなってボクに尋ねた。「何かがあったわけじゃないよ」と答え、腰かけていた回転椅子ごとよしおの方に向き直る。

「ただね、ちょっと将来のことを考えてた」

「……クマ井の行く末か?」

「そうだね……それも含めて、いろいろと。クマ井とこの村は一蓮托生だからね」

「そっか」

 やや下を、ちょうどボクの膝辺りの中空を見やりながらよしおは相槌を打った。何かを目まぐるしく考えているときの彼の癖だ。そしてその数瞬あとには小さく幾度か頷きながら、物事の整理がついてしまう。

「オレも協力できることは、なんでも協力するよ。まちには……延いては、村のためにナツはなくてはならない存在だから」

「……そうだね。わかってるさ」

 少し含みのある返答をしたところで、「あ」と彼は慌てた様子でボクに目を合わせると、「もちろん、ナツのこと単体でも大切に思ってるぞ」と付け加えた。

「はは、ありがとうよしお……そんなよしおがいれば、まちも安泰だよ」

「――お前の幸せも重要なんだ。まちだってそう思ってるよ。みんなが幸せな方が良いに決まってる」

「……そうだね」

「特にナツのことは、ずっと一緒に過ごしてきたんだから、ほかの誰よりもそう思ってるはずだ」

 そう、だろうか。そうであっても、いずれ別れの時がきてしまう。そしてボクの方が彼女よりも確実に早くいなくなる。

「ずっと過ごし続けることは無理だなあ」

「だからって心中みたいなことはやめてくれよ?」

 物騒なことを言う。それから続けて「まあそうなったらこの村はおしまいだな」なんて冗談めかして言ったが、ボクは思う。

――そうしたらよしおだって後を追うくせに。

 

   *  *  *

 

「はあ……」

 しばらく感傷的な空気となったが、我慢できなくなったボクは思わず溜息を吐いてしまった。

 よしおは申し訳なさそうな表情を浮かべた。彼が何かを言いだす前に再び話しはじめる。

「愚痴を聞いてもらっちゃって、ありがとう」

「いやこっちこそ……オレ聴き上手じゃないからさ、上手い返しができないけどな」

 そんなことはない。腹を割って話すことができる唯一といっていい存在であるよしお。相談をして、何か共感をしてもらいたい、解決をしてほしいわけではない。ただただ、胸の内を吐き出すことができる、それだけでもありがたいことであった。

「でもいつもはさ、まち相手にちょっとでもこんな雰囲気になったら、とにかく過剰にスキンシップしてぱーっと発散しちゃうのにね!」

「お? いいぞオレにも! どーんと来い!」

「いやいや……よしおにどーんといったらケガするでしょ」

 勢いよく立ち上がり両腕を広げるよしおに、ボクは冷静にツッコミを入れた。

 よしおは心底残念そうにしながらしばらくその体勢をとっていたが、無視を続ける。

「……わかったわかった。あきらめるよ!」

「わかってもらえてよかった」

「ほのかのときに懲りてるからなぁ……そりゃ、ナツとほのかを比べるのは失礼だと思うけどさ」

 よしおは以前、寝起きのほのか――クマ井の雌クマでボクとは幼馴染――にケガを負わされて、何針も縫ったことがあった。故意に負わせた傷害ではなくとも、悪くすればそういう事態を招きかねないということだ。

「でもその点まちはすごいよなー」

「まあ鍛え方が違うからね。冬前には毎日のように薪割りしたりするし」

「しかもかなり小さい頃からな」

 そう。ボクの憶えている限り――5歳くらいだろうか――以前からずっと薪を割っていた。

 フチに命じられて、とのことであったが、あれのおかげで今は年中べったりすごせている。そのための鍛錬の一環であったのだろうか。というのも、クマのボクが幼女のまちと親密にしていたら、普通であれば簡単にケガをさせてしまうわけで。

 まちは自主的に木にぶら下げ丸太を揺らし、下に立ってそれをいなし続けるといった訓練もしていたと聞いた。ボクもボクで常に適切な力量を揮い続ける訓練をした。

 今の幸せな毎日は少なくない努力で成り立っている。これからだってあと少し、努力を続けていかなければならない。

 ボクより長い、まちの未来のために。

 

 

つづく

くまみこのはなし3

3.

 

『以上、ナッちゃんの熊出村TVでした~! チャンネル登録、おねがいします!』

 画面のリアル熊はおよそ熊とは思えないコミカルな動きでチャンネル登録を促し、動画の再生は終わった。自室のパソコンでそれを観ていた私は少し姿勢を正すと、軽く伸びをして冷めかけたコーヒーに口を付けた。

 季節は秋口、今年は異常気象ともいうべき極端な天候も多く、まだまだ夏のような気温が続いている。

 幸い私の暮らすまちは暑いだけで、住まいも平地にあるので豪雨災害に見舞われるようなことはなかったが、ニュース番組などでは全国の悲惨な状況も多く目にした気がする。

 近年の気象現象には「ちょっと上ブレが過ぎませんか?」と御進言差し上げたいほどだ。

 そんな中でも季節は巡っていく。待ってはくれない。来週末には連休が控えていた。

 私の趣味は田舎に出かけて土着の面白い慣習に触れるといったような、ちょっと一般的に説明のしがたいものである。

 普段他人に話すときには「旅行が趣味でーす」なんて言ったりしている。

 まあ嘘は言っていない。地域の特産物を食べたり温泉宿に泊まったりなど、同時に普通の旅行としても楽しんでいる。別に学生時代と違って、研究に行くというわけではないからだ。

 そもそもその研究とやらも半ば旅行のような感じだったわけだけれど。

 そう。この趣味は学生時代の研究活動の延長――名残、残滓、熾き火のようなものだった。

 大学院を出るのに際し、研究を続けるような熱量はなかったが、完全に離れることもまた、できなかった。

 そんなモラトリアム的な趣味だけれど、じっくり調べて現地にも赴き、成果を自分なりに認めるという一連の行為にはそれなりに時間もかかるし、全国に限らなくても対象は無数にある。

 幸い、というべきか、結局地方公務員などに身をやつしているので好きに使える時間はある程度多い。休日もはっきりしている。そんな生活スタイルにもばっちりと噛み合った、至るべくして至ったような趣味ではあった。

「『熊出村』、ね――」

 さて、そして私が今度の連休で訪れようとしている所は東北の山村――日本海側に足を踏み入れるのは初めてだった。

 早いもので社会に出てから5年が過ぎている。手近な所から、と。これまでは住んでいる関東圏ばかりを攻めていたのだが、ふと目に留まった情報を調べていくと、気になるその村の所在は多少遠方にあった。日帰りで行くのは厳しいが、3連休であれば行けない距離ではない。

 「ゆるキャラ」というものが少し前から流行っている。だいぶ成熟してきて最近ではお金の匂いがきつくなってきたが、それでも地域振興の名目で地元のマスコットキャラを出場させている自治体は多い。私は訪問先の検討によくそれを利用していた。地元の名産とか有名な習俗から着想を得たキャラクターが出場することも多いためだ。

 私が気になった『クマ井のナッちゃん』もその類のキャラクターらしい。

 ゆるキャラという名称を逆手に取ったようなリアルな造形の熊を模した――いや、ただの熊をキャラクターと言い張っているという印象だ。いつもは近場で検索をかける私の目にも留まったのは、そのキャラクターがグランプリを取ったからであった。

「あまりにも、私好みなんだよね……こわいくらいに」

 その村を調べてもあまり情報が出てこない。それもそのはずで、そもそもそんな村は存在しないのだ――少なくとも「今」は。

 その名前の村は十数年前の大合併時期に周辺の町に併合されており、今は「北島郡吉幾町の熊出地区」である。それなのにエントリー情報を見ると「熊出村」という表記が採用されている――これは大変面白い。

 その「村」という単位を、意地でも捨てたくないのか。登録者を見れば普通に「熊出村役場わくわく観光課」とあるのも異様さに拍車をかけている。行政がその、正式にはもう存在しない名称を用いているということか。担当者の独断がまかり通るような事態になっているのであれ、きちんと管理者の決裁を受けているのであれ、それを良しとしているとは舌を巻く。

 田舎の土着の風習――その中でも、私が最も惹かれるものは、「閉鎖的な山村に未だ残る因習」である。

 調べがつく数少ない情報である『クマ井のナッちゃん』をちょっと見てみたところでわかってしまう隠しきれぬ閉鎖性。初めての逸材といった感じだった。

 

 

つづく

くまみこのはなし2

2.

 

 東北の夜でも、この季節になれば熱帯夜近くの気温となる。

 就寝時には薄手のタオルケットを掛けるくらいで十分な日も多い。

 今日は特に蒸し暑い夜だった。

 時刻は午後10時半過ぎ。しばらく前から、部屋の外に佇んでいる影があった。

 それはヒトの形をしているようだが、その立つ廊下には窓がなく詳細な姿を伺い知ることはできない。

 それは戸にぴたりと張り付き、中の様子を窺っているように見えた。

 戸の中ほどには木で作られた「まちちゃんのおへや」と書かれたプレートが掛けられている。

 それはじっと息をひそめるようにしてそこに微動だにせずいたが、やがて音もなく戸を引き、室内に滑り込んだ。

 それは中に入ってすぐの所で一度動きを止めた。

 深く、大きめな寝息が、規則正しく続いている。

 その様子を確認したのか、それはふたたび動きはじめた。徐々に室内を進むにつれ、部屋の窓から入り込んだわずかな月明かりに照らされて、ほの白いその姿がおぼろげに浮かび上がる。

 その印象は、ちぐはぐな幽霊画のように奇妙だ。

 漆黒の頭髪のように見える部分は闇に透けて境界がはっきりしないが、それの上半分にまとわり、縞状に流れている。ごく薄い襦袢が体に張り付くようにまとわれている。

 奇妙なそれは部屋の中央で眠りにつく少女にだんだんと近づく。そして傍らに寄ると小さく屈んだように見えた。座っているのかもしれない。

 それは、またその場所でしばらく動きを停めたまま、少女の顔に目を向けた。

 まるですぐ先の獲物を茂みの中から吟味する獣のような雰囲気だった。

 少女はそれに背を向けるように、横向きで膝を曲げ、安らかに寝息を立てている。

 それからそれは、一度足先に顔を向け、じりじりとまた上方にねめつけていく。

 染みひとつない小さな足。丸いくるぶし。控えめな内くるぶし。緩くたわんだラインのふくらはぎの、その曲線の頂点よりわずかに手前までズボンタイプのパジャマの裾が隠している。装飾の少ない、そのゆったりとした裾が、少女の細い脚を強調している。パジャマのトップスは長めで、裾がふとももの中腹辺りでふわりと広がりを見せている。わずかに襞を湛えたその裾が少女の可憐さを印象付ける。

 ほとんど乱れていないタオルケットが股下の浅いところまでを覆い隠している。その端から腰骨の一番高いところを越え緩やかに下る稜線は、その下の華奢な腰回りを容易に想像させる。

 それから脇腹、腋下を通り肩峰の尖りをにらみ、二の腕に差しかかると、再びその柔肌が夜気に晒されていた。袖は短めで、やはり縁に目立つ装飾はなくシンプルだ。どこまでも滑らかであろうことが、見た目でよくわかる、そんな肌理を惜しげもなく露わにした両腕は柔らかい角度で曲がり、わずかにもつれ合う。

 そしてその手。それはタオルケットの端を緩く掴んでいた。その様子はどこまでもあどけなく誘うような形をしている。ふくふくとした手は目に入れるだに儚く、その透けるように薄い肌が稀少で高価な紗を思わせる――

 この日のそれは、観察にたっぷりと時間をかけていた。

 それからわずかに震えながら身を屈め、顔を少女の耳元に近付ける。

 黒く細い束がはらりと重力に従い流れ落ちて少女の顔に掛かったが、それは間髪を入れずに何やらぼそぼそと繰り返しつぶやいた。少女は顔に掛かるものを払う素振りも見せず、もちろん目覚めもしない。

 それからそれはすうっと体を起こすと、タオルケットの端に手をかけ、大胆にめくり上げた。

 タオルケットと少女の間に蓄えられていたわずかな熱が逃げていく。

 それは慈しむようにして少女の顎を撫でる。少女は身じろぎひとつしない。それからゆっくりと自らを焦らすかのようにして少女の背中に寄り添い、横たわった。少女との体格差が如実に表れている。少女はそのまま背後から、包み隠すように抱きすくめられた。

 先程までの息を殺さんばかりの慎重さなどは微塵も感じさせない行為。それを少女は安らかに受け入れ続ける。

 やがてそれは少女の体の感触を存分に味わいながら自らを慰めはじめた――

 

 

 

つづく*1

*1:書き忘れてましたけどこういう感じの雰囲気ありなやつです

くまみこのはなし

 コミケからひと月が経過したので、少しずつ二次創作物を供養していこうと思います。思いつきです。紙代をいただいた方は悪しからず。

 

 

 

『熊出村の呪い』

 

1.

 

――東北のどこか、山奥。

 その村では、山の神の使いとして熊を神聖なものとし、祀っていた。

 全国的にも珍しい信仰。しかしその村では、他の地域にはない特別な事情により、その信仰は篤く、篤く村人に根付いていた。村人はその特別な事情を村外不出の秘事とし、この情報化社会においてまで、粛々とそれを守り続けてきた。

 そんな閉鎖的な山村、『熊出村』に未だ残る、忌まわしい秘密とは――

 

   *  *  *

 

「はいどーもー! ボクはしゃべるクマYouTuber、クマ井のナッちゃんでーす! 今日はまた、ここ熊出村を散策しながら村の魅力についてのんびり語っていきたいと思いまーす!」

 緑眩しい夏の山の中で、画面越しには本物にしか見えない熊がヒトのように二本足で立ち上がり、日本語を話しておどけていた。

 そのまま意気揚々と未舗装の山道を進み、雑談風のひとり言を話す熊。少し急な斜面を登り切ると、木々が開け、熊はアスファルトの車道に躍り出た。音声や字幕がなければまるで動物絡みのハプニング映像だ。

 そんなことはお構いなしに、熊は快活に話し続ける。強い陽射しを受け、その整った毛並みの体毛がきらりと光った。やがて熊は何かに気付いた様子で立ち止まり、声を上げた。

「おーっと、クマ出没注意の標識がありましたねー。じゃあさっそく行ってみましょう! ――ミュージック、スタート!」

 ごきげんなミュージックが流れはじめる。そして熊は画面外に消えると、しばらくしてから「はい、ひょっこりクマーン!」と言いながら、標識からひょっこりと顔を出した。十分な間を置いて、画面は暗転した。

 それから動画は山を歩く熊を映し、脇道に逸れ、沢に入る熊を映した。熊は例の動作で魚を獲ろうとするが、あえなく失敗に終わったりする。

 しばらくの間、代わり映えしない山林の景色の中で活動する熊を捉えた画が続いたが、最後は木材のふんだんに使用された屋内に画面が切り替わり、その中央に立つ熊がくるりと振り返って小首を傾げ「モキュ?」と鳴く決め台詞により、動画は締め括られた。

 

   *  *  *

 

「どうかな?」

「どうって、いつものナツじゃない?」

 ナツの問い掛けに、私はクッションの上に腹ばいになりながら先程まで映像が映っていた板状のパソコン(?)を揺らす。磨かれた床板のひやりとした感触が心地好い。

 ここ、熊出神社は表向き無人神社を謳っているにもかかわらず、拝殿内部は傷んだ様子もなく、清潔で、がらんとだだっ広い。

 それもそのはずで、私が多くの時間をここで過ごし、毎日のように清掃をしているためだ。

 休日はもちろん、平日も放課となればそのまま神社まで帰ってきて、部屋着よろしく巫女装束に着替え、日が暮れるまでそこにいる。そんなものだから、奥の本殿には快適に過ごすためにかなりの資材があるし、ナツのための無線LANも完備されている。

「リアルに存在している感じを売りにするべきだと思うんだ。だからいつもの感じでいいんだよ! それがシュールというか」

「うーん……でもこれ、これをいったいどうするの? いろんなとこに置いてもらうのかしら」

 ナツのやっていることがいまいち理解できない。動くポスターみたいなものをいっぱい配置することで、親近感を持ってもらおうということか。

――これもやっぱり都会っ子は使いこなしているのよね。苦手だからって逃げてちゃダメね。

 そうやって自分を鼓舞してみようとするが、そもそも触ると良くないことが起こるので機械全般が怖いのだった。苦手というより怖いのだ。

 そんな私の葛藤など露知らず、それでもナツは説明を試みてくれる。

「この動画は、動画投稿サイトにアップロードするんだよ! この映像が、全世界に公開されるんだ!」

「もー、ナツったら全世界だなんて大げさね!」

「確かに全国の人にすら観てもらえないことには、だもんね」

 そんなナツの優しさはわかるだけに、私は理解が及ばないことを曖昧にぼかして、ナツの胸元の毛をそろりと撫でた。機嫌を損ねないでほしいという気持ちの表れだった。

 そんなある意味繊細な会話をしていると、それを打ち破るような勢いで入口の簾が捲られた。

「おーおー、やってるな!」

「あ、よしお」

 テンションも高く部屋に入ってきた従兄の雨宿良夫にナツが振り向き、そっぽを向かれた形となる。

――よしおくん、空気を読んで!

 私は口をとがらせ、無神経な彼をにらんだが、まったく動じていない。

 そんなよしおくんの態度は、それでいて人見知りな私にとっては心地好く、素の自分を出せる数少ない相手のひとりであった。そうではあるのだが、その底抜けの明るさと社交性は自分には無いもので、その眩しさに劣等感をちくちくと刺激されることもある。それが少々の悪態となって表に出てしまうことは仕方がないことではないか。

 そんな呪詛吐く巫女の世話役として、業務中のはずの日中にも度々この神社を訪れるよしおくん。しかし今は私の世話役としてではなく、役場の職務として来ているらしい。

「どれどれ、オレにも見せてくれよー」

「編集はやっぱり一筋縄ではいかなくてさ……技術的にもそうだけど、やっぱりセンスが――」

「そうだよなー。でもプロに頼むような予算はないぞ!」

「わかってるよー。ボクも興味はあったことだったし」

 さっそく仕事の話が始まった。

 機械の話でさらに仕事の話ともなれば、はたで聞いていてもちんぷんかんぷんである。

 ふたりが楽しそうに知らない話をしているので、私はまた口をとがらせ、余所を向いて膝を抱えた。ナツはそんな私のそんなわざとらしいかまってちゃんな態度を認めるとそれでも呆れずに会話を切って、「だからまちの力も借りたいんだ!」と私も話に加えてくれる。

 うれしいけれど、同時に、そんな風な態度をとってしまう自分を恥ずかしくも思う。

「な、なによ……! どうせ私に手伝えることなんて何もないわ」

「そんなことないよまち! これはね、かわいらしさに敏感な女子にしか頼めないんだ!」

「そうそう! 『ナッちゃん』といつも一緒にいるまちだからこそ、その魅力の発信に一役買えると思うなー」

「ほんとに?」

 言葉には素直に同調できなかったが、よしおくんにもそこまで真っ直ぐ言われてしまうとすげない態度を取り続けるのも難しかった。ナツがさらに諸手を上げてたたみかけてくる。

「ホントホント! ねえまち、ボクのチャームポイントってどこだと思う?」

「え? そ、そうね……」

 尋ねられた私は遠慮がちな風を装いながらも、眼光鋭く流すようにナツの体躯を見やった。

 魅惑の毛並みの背中。マズルとその下の弾力に富み濡れ光る口唇。もったりとしたフォルムとその触れることを拒まれてしまうことで生じる稀少価値がさらに私の情動を煽りたてる臀――

「ねえちょっとまち! 会話を放棄しておさわりはやめて!」

「あ? え? うそ、私触ってた?」

 ナツに押し戻されるまで自分の行動に気がつかなかった。どうも考えながらも体が衝動を抑えきれなかったみたいだ。しかしこれほどまでに私を狂わせる、そのボディは全身まるごとチャームポイントであるということにほかならないのではないか。

 そんなことは口に出せなかったが、よしおくんは「うんうん。そうだよな……やっぱりその体そのものの魅力もな――」などと呟いている。どうも私の行動が如実にそれを物語ってしまっていたらしかった。

「えー。でもやっぱり、何か派手なこともしていかないと」

「それはそれで、今の出来ている感じでいいんじゃないか? オレが思ったのは、画の撮り方を含めたことで、こう、陽射しを受けて毛並みのリアルさが艶めかしいような短いシーンを――」

 ナツの魅力を引き立てるようなものを作る。ということで話がまとまったらしかった。

 私でも少しは役に立てたのだろうか――しかし、私のナツへの欲望が反映されてしまうようで少し恥ずかしい気もする。同時に、その魅力を自分だけの秘密にしておきたいような気持ちも、確かにそこにあったのだった。

 

 

つづく

映画を観たよ

 私は最近まともにアニメも観ずにふにゃふにゃしていますが皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

 

 さて、そんな私が最近していることと言えば標記のことくらいなものですので、そのことについて少し書いておこうかと思います。鑑賞云々も死んじゃいましたしね。

 

 最近、似た題材を扱った作品を続けざまにふたつ観たのでそれについて書くことにします。どちらも例によってホラーです。誰も観ることがないと思いますので簡単なあらすじも書いてしまいます。悪しからず。

 

 

 

●『ベイビー・キャッチャー』(原題:Still/Born)

 夫の昇進を気にマイホームを手に入れた夫婦。妻は双子を身籠り、まさに幸せの絶頂といったふたりだったが――

 冒頭から出産シーンだったかしら。そこで双子のうちのひとりが死産となってしまいます。場面が移って新築(?)の自宅。寝室にはベビーベッドがふたつ置いてあり、そのうちのひとつはその役目を果たすことはないわけです。無理もないことですが、それをきっかけにしてか、妻は産後鬱の症状を呈し始めます。

 上述の似た題材というのが、この「産後鬱」です。どちらも原因は違えど、母親が産後鬱(らしい症状)に陥り、凄惨なことになるという内容です。簡単に言うと。

 この作品での妻は夫が出張で家を空けがちになり、孤独に閉じこもるうちに段々と幻覚などが見えるようになるなどし、それが邦題にあるように子供を盗られる、喪ってしまう恐怖に結びついていき、症状が悪化する――という流れとなっています。
 これがちょっとひとつ、不満な点を生じさせるのですが、双子のうちのひとりが死産。これは確かにガツンとインパクトのある悲しい展開です。でもその他の環境が整っているのですよね。夫はとても優しく家を購入したことで稼がねばならず仕事が忙しい中であっても妻を気遣い、子供の面倒も見ようとするし家事も手伝うし、仕事の忙しさを当たり散らすこともありません。また、赤ちゃんの祖母(妻か夫の親)はその妻と頻繁にビデオ通話で様子を気遣い、育児を手伝いに行こうかという話にもなりかけます。なりかけるだけでしないんですけど……でもビデオ通話でも明らかにおかしい挙動をするのでめちゃくちゃ心配になるはずなんですけど……。さらに孤独と書きましたが、御近所さんに年頃の近い、同じくらいの赤ちゃんのいる所謂ママ友もできて、その人との交流もあったりするんです。結構恵まれていません?
 まあ要するにです。あんな酷い状況になる前に、もっと対処できたのではないか……と。酷い状況になること自体はまあそういうこともあるでしょう。病気なので*1。でも最終的には来る親が遅すぎるのもあれですし、一端入院までしているのに脱走して、凶行に出られると……本当に悲しい気持ちになってしまいます。結末として凄惨な状態を見据えるのであれば、その途中で助かっちゃいけないわけなんで、仕方ない――とは思えないんですよねこれが!

 とても悲しい出来事で産後鬱になった妻が霊的なものに振り回されて最後には死んでしまう。対処がとても困難で虚しさを感じざるを得ない。
 私は少なくともそういったことを表現したいのだと、それのしくじりであると読めてしまったわけなんですけど、そうであるならばもっとその結末に妥当性がなきゃダメだなあと思うのです。手を尽くせてないやん! と歯がゆく、憤りを孕んだ虚しさを感じます。
 これ即ち虚しさを演出できているよという話なのかもしれませんが、だとすればもっと困難さと正面からぶつかってほしいです。例えば親がもっと早く、それこそ出張が決まったところで確実に妻をひとりにしておかないようにしておいてもなお、事が起こってしまった。となればそれはより処置なし感が際立ちますし、手は尽くされているので歯がゆさも軽減され憤りも少ないでしょう。

 ぐだぐだと書いてしまいました*2が、好いところもあります。
 まず、魔女ラマシュトゥという存在を出すのは好ましいですね。ただそれは名前だけで、お話になぞらえた何か儀式的なものをするでなく、単に生贄として別の赤ちゃんを――くらいなことにしかならなかったことは残念です。調査パートもほぼ無かったですしね。
 あとは魔女の録音できていた言葉、妻の「何故うちの子なの?」みたいな問いに「ひとりめが旨かったからだ」的なことを言ったの、あれはよかったですね。この着想から脚本ができたんじゃないかとすら思えますね。
 それと演技は上手です。比べるのもとても失礼なことですが、普段観ているゴミ屑ホラーとは雲泥の差で……へへ。

 まあそんなこんなですが、誰にも頼らず、方策が尽くされず失われていく幸せな日々に絶望する夫に感情移入したい方には、おすすめです!

 

 

●『マザー・ドント・クライ』

 こっちのお話は、先に挙げたものと比べてかなりシンプルな感慨です。一応あらすじを書きます。
 家出をしていた娘が戻ってきた。しかし直後に出産。母は娘にその子の父親は誰かを尋ねるが答えようとしない――

 これもほぼ冒頭が出産シーンでしたねそういえば。
 えーと、まず母子家庭です。娘も結果的にシングルです。話の途中で徐々に明かされますが、家出をした後すぐに街まで乗せて行こうかと車で現れた男に強姦されて出来た子供だということです。
 そういったことで、こちらの作品では二進も三進もいかない状況が作られています。その点では安心でした。

 まあさらに、本当に悲しくなるような設定が少しずつ明かされていくのですが……まあ母親(赤ちゃんからすると祖母)もメンタルの人で、そもそも生育環境が悪いんですよね。さらにその母がかかっていた精神科医が……あれ、読み違えだとよくないんですが、普通に母に気があったんですよね? それで放っておいても大丈夫だって言って母を食事に連れ出したわけですよね? 最初は母もゴミ屑なので娘と孫から離したのかな? と思ったのですが、あの精神状態の(虐待の可能性も大いに考えられる)娘よりかはまだ母の方がましなんじゃないかと思っちゃいました。さらに幻覚だと思う存在から「子供を殺せ」と言われていることについて、治療としてそれに従ってみろなんて言っている場面があって、その辺の意図はなんなのだ……? というのが少し腑に落ちません。子供の安全を第一に考えているわけではないという読み取りができてしまって、そうすると医者が母に気があったと考えるのが妥当かなって思ってしまいます。

 あ、そういえば思い出しましたが、赤ちゃんの傍に置いておいて泣き声があるとスピーカーを通じて泣き声がレシーバーから聞こえるシステム。あれ、両方の作品でありましたね。その辺の使い方は『ベイビー・キャッチャー』の方がちゃんとしてたかな、と思います。こっちだとそれが作動していないのに赤ちゃんが泣き喚く幻聴が聞こえる、くらいの使い方しかされていなかったので。

 話を医者に戻すと、最後、母親が死んだのをよそに娘に麻酔を打って赤ちゃんを持ち去って……なんなのでしょう。なんなのだあれ。本当になんなのだろうか。

 あとはそうですね……私の趣味の話で言えば、この作品の心霊的な根拠が、その村であった過去の凄惨な出来事の呪いなのではないか、ということなのですが、それを鵜呑みにした主人公がオカルティックなおこないでの解決を目指したりしたらよかったかな! まあ産後鬱で弱っていく中でそれができるだけのバイタリティが保てないのがちょっとこの題材との相性の悪さを…………だから、前者の作品で例えば夫がそちらに傾倒して調べていってこじれるとかでもよかったんだよなあ(どっちの感想なのだ)

 全体を通して見ると、環境の悪さが目立ち、むべなるかなという感じを強く受けます。「ままならないな」という気持ちを凌駕して、「まあこういう場合もあるだろうね。仕方ないね」といったところにまで気持ちがいってしまいました。
 そこまでいってしまうと、やるせなさみたいなものは逆に想起されないのだと、その日私は知りました。

 

 どうしようもない場合もあるな。ということを知りたい方に、おすすめです!

 

 

 さて。これを書くにあたり他の方の感想も探してみたところ、『ババドック~暗闇の魔物~』なる作品がまた似通った題材であるという情報も目にしました。

 今度はそれにも挑戦してみようと思います。

 

 あと最近観たゴミ屑を含めたホラーについてせっかくなのでメモしておきます。

ミスミソウ』『それ ~それがやって来たら…』『黄泉がえる少女』『心霊スパイラル001』『怪奇蒐集者シリーズ』『シスター』『口裂け女 in L.A.』『口裂け女 VS メリーさん』『ホラーの天使』『リアルお医者さまごっこ』『心霊玉手匣 constellation』『デンデラ』『ザ・ヴィレッジ』『フリーキッチン』『ドント・イット』『新感染 ファイナル・エクスプレス』『THAT/ザット』『悪霊館』『奇死伝 パラノーマル・デモニッション』『百合色』『こどもつかい』『埼玉喰種』『うしろの正面』『凸撃!!心霊調査隊 カチコミ』『戦慄ショートショート 恐噺 うしろにいますよ』『投稿 怨霊映像ベストランキング30!』『屍憶 -SHIOKU-』『戦慄の果てに女は嗤う』『呪家2』『マインド・エスケープ』『劇場版 屍囚獄 結ノ篇』『呪家 ノロイエ』『婆の怨霊』『呪怨館』『アンノウンッ』『ヴィジット』『浮遊霊!』『パッセージ 牙剥く森』『スケア・キャンペーン』『グレイトフルデッド』『事故物件 クロユリ荘』『どけっ!』『丑刻ニ参ル』『イット・フォローズ』『ライト/オフ』……

ちょっと、どこまで書いたらいいかわからなくなってきちゃったのでやめましょうか。最近と言いながら去年の5月まで遡っちゃった。にはは(がお。。。)*3

*1:まあ病気じゃなくて少なくともなんらかの心霊現象なんですけど

*2:文句は筆が乗るのんな。

*3:古の鍵っ子並の台詞。