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たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

無気力に細切れに2

 ――千歳は幼少期より妄想の強い子供だった。正確には、妄想の強い子供だと、みなされていた。

 物心つく前の千歳は、双子であったにもかかわらずに独りで遊ぶことが好きな内向的な性格だった。しかし時折、普段の彼女がそんな性格であるとは到底思えないほど快活に笑い、楽しげに話す様子が観察された。

 彼女の母が珍しく千鶴とでも遊んでいるのかと様子を窺うと、千歳ひとりだ。しかし後で本人に話を聞けば、決まって誰々と遊んでいたといったようなことを話す。

 母は豹変とも言えるようなその振る舞いや幻覚でも見ているかのような言説に一抹の不安を覚えたが、本などをあたり、その行為は物を擬人化しているのであり、幼少期にはよく見られるものだという記述を見つけて安心していた。

 しかししばらくすると、それとは別の症状に悩まされることとなる。それは頻発する鼻からの出血だった。

 初めは鼻粘膜の慢性的充血によって繰り返される単なる鼻血――これも子供にはよくあるものだ――だと考えた。しかし、ある日母親は気づいてしまう。鼻血を出すのは例の妄想独り遊びで豹変するときだけだ、と。

 千歳の妄想は日増しに強くなっていく。鼻血の随伴する頻度も増えていく。また、双子であったことが災いし、千歳の異常さは千鶴と容易に比較され、際立った。

 母親は様々な医師を頼ったが原因はわからない。医師やカウンセラーは長い目で見るべきだというような説明をした。

 千歳の父は仕事柄転勤が多く、当時は単身赴任をしていた。母は彼に何度も相談をしたが仕事の都合上顔を合わせることができないことに加え、原因が不明なためにはっきりとした説明もできなかった。その結果、父には事の深刻さが上手く伝わらずに大したフォローのないまま、彼女にとっては地獄のような日々が過ぎていった。

 就学を来年に控える段になっても千歳の症状は改善しなかった。その頃の千歳の症状は幼児期のような苛烈なものではなかったが、日常生活には支障を来たす程度には重かった。

 焦点の合わない目で宙を見据えて妄想に浸る様子が非常に高い頻度で見受けられた。大きな声を上げることはなくなったが、その代わりに様々な感情が薄れ、時折何かに怯えながら鼻血を出し、しばしば昏倒した。出血が酷いときには救急搬送されることもあった。

 母は次第に疲弊していった。様子を聞いていた祖母が見かねて子供たちを一時的に預かることになった。その祖母が、千歳を妄想の檻から救い出してくれたのだ。

 

 千歳のオカルト的知識の大半は祖母からのものだ。

 祖母の故郷は土地柄不思議な伝承が多く、必然そういったものに対する造詣が深かった。そして幼少期の千歳の様子を見て、その知識を生かすことにした。大まかに言えば千歳の妄想を型に嵌めることができないかと考えたのだ。

 祖母はまず、妹の千鶴に対して不思議な逸話や怪しげなおまじないなどの話を面白おかしく話して聞かせた。

 その頃の千鶴は千歳を疎むことを隠しもしない親に対してある種の反感を抱き、結果として姉に懐いていた。千歳は別段千鶴と仲がいいわけでもなかったが、遠ざけもしなかった。

 そこで祖母は千鶴からアプローチして、千歳も巻き込む形を取ろうと考えたのだ。感情の乏しい状態の千歳には、まずはとにかく他者との関わりが必要だった。

 妄想にあるモノに対して名前を与えたことで、実体のないはずのものに逆に固執するといったように、治そうとする過程において新たな病理が出現してしまう可能性もあった。しかし祖母は双子の姉妹の繋がりを信じ、話を聞かせ続けた。

 実際はその対処が存外に上手くいき、小学校へ入学するころには少し変わったおとなしい子供ぐらいにはなっていた。千歳と千鶴の仲は格段に良くなった。ふたりは両親の元へと戻って仲良く学校へ通い始めた。