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たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

無気力に細切れに6

 実はちょこちょこ中身を弄ってるのは内緒。

 

 

 ちょっと弄ればすぐに開けられるかもしれないなどと高を括っていた櫻子だったが、まったくそんなことはなく、一手動かしたきりになってしまった。当然次の授業も上の空のままに過ごし、チャイムが鳴ると起立、礼も待ちきれずにすぐにロッカーへと向かった。

 休み明け初日は半日でもう以降の授業はない。時間はたっぷりとある。櫻子は、わくわくとした気持ちが顔どころか、思い切り行動に出てしまっていることにも気が回らない様子で、特に辺りを警戒することもなく袋を開けて中に入っている箱を確認した。

――さて、と。向日葵は――
「なんか楽しそうだね、櫻子ちゃん」
「え!?」
 背後から急に話しかけられて櫻子の肩が跳ねる。周りが帰り支度をする人でごった返しているのに気づくも時すでに遅く、手に握ったままの箱を咄嗟に隠すのも怪しい。櫻子はゆっくりと声の主の方に振り返った。
「……なあんだ、あかりちゃんか」
「『なんだ』って、ヒドいよ!」
 声の主があかりだと気づくと、櫻子は露骨に胸を撫で下ろした。あかりがぷんすかといった風に怒っている。
 櫻子は授業中に考え続け、箱の攻略にはもう少し多人数で取り組む必要があるだろうと結論付けていたので、あかりから話しかけてくれたのはむしろ好都合だった。
「ごめんごめん。あかりちゃん、ちょっと!」
 櫻子はあかりの肩に腕を回すと、身を屈めてひそひそと事情の説明を始めた――途端、再び背後からの声があって遮られた。
「あかりちゃーん、早く部室行こー、って」
「あ、ちなつちゃん。ちょっと待ってね。今、櫻子ちゃ」
「え、なになにどうしたの何の話!?」
 あからさまなひそひそ話にちなつは興味をそそられたようで、勢いよく首をつっこんできた。目の色が変わり、きらきらと輝いている。
「ねぇ櫻子ちゃん。その話、ちなつちゃんにも……」
「なんなのもう! 隠さないで教えてよー!」
「うーん……まあいいや。じゃあどうせならごらく部の先輩たちにも考えてもらうことにしよっかな」
 複数人を巻き込み、段々と話が大きくなってきたことで、櫻子の興味は中身がどうこうというよりもみんなで箱を開けることを楽しむということの方に傾きだした。善は急げと、早速向日葵も呼び、部室へ向かうことになった。

 

 一行が部室に着き入口の戸を開くと、三和土に二足分の靴がある。もう京子と結衣は中にいるようだ。
「おじゃましまーす」
「失礼いたします……」
 櫻子と向日葵は、それぞれに挨拶をしながら中へ入った。あかりやちなつとは同じクラスで話すことも多いが、部員ではないふたりがこの部屋に入る機会は少ない。
「お、珍しい人がいるじゃーん」
「えーと、ようこそふたりとも。何か用事?」
 京子と結衣は、突然ふたりが来たことでそれぞれの反応を返した。
 結衣は少し居住まいを正したが、京子は四人が部室に入ったときのまま、仰向けに寝転がって漫画を読み続けている。
「櫻子ちゃんがね、みんなに頼みたいことがあるんだって」
 結衣の質問を受け、あかりがさりげなくフォローを入れた。
「なになに? なんか面白い話ー?」
 面白いものセンサーが反応したのか、京子は漫画を脇に置くと、跳ね起きて身を乗り出してきた。
「なんだ……生徒会の用事じゃないのかな」
 結衣は初め、生徒会のふたりが来たということで事務的な連絡を予想していたのだが、あかりの話し方からどうもそういうことではないらしいと感じ、相好を崩した。

「じゃあまあ、その辺に適当に」

 結衣が座布団を用意し、ふたりに座るよう促した。「はーい」「失礼します」と部外者のふたりは答え、それぞれテーブルを囲んで座る。
「麦茶いれてきましたー」
「あ、ちなつちゃんありがとー」
「わざわざすみません吉川さん」
 いつものようにちなつが麦茶を用意した。
「じゃあじゃあ、早く聞かせて?」

 そして飲み物も行き渡って準備万端だろうとばかりに身を乗り出し、きらきらとした瞳でふたりに話をせがんだ。

「ほら櫻子、説明なさい」
「うるさいなー。わかってるよ」
 辺りを取り巻く浮足立った雰囲気を感じてにこにこと楽しそうに和む櫻子だったが、向日葵にたしなめられてようやく要件を思い出したらしく、箱を取り出して机の上に置いた。
「えーと、この箱なんですけど……」
「なになにその古そうな箱!? 何が入ってるの?」
 謎のアイテム登場にテンションの上がる京子。
 一方でちなつは、その見た目からか「なんか不気味ですね」と先程とは打って変わり怯えた様子を見せた。確かにところどころ何かの貼り付いた跡のある古い箱は冷静に見ればどこか不気味である。
「えーと、その、この箱はですね」
「お宝? 宝石? なんだろ?」
 なんとか説明を試みる櫻子だが、箱の出所から話そうとしてしまって上手い嘘が吐けず、要領を得ない。加えて京子はとりあえずマイペースに煽るようなことを捲したてる。似たタイプのふたりが悪い方へと協調したような状況に、向日葵は小さく溜息を吐いた。
――まったく櫻子と歳納先輩はどうしてこう……。
 向日葵がそろそろ助け船を出そうかと思いはじめたとき、先程から黙って考え込んでいた結衣が突然口を開いた。
「これ、寄木細工だよね。もしかして……開かないの?」
「はい。さすが船見先輩です。相談と言うのはそのことで」
 こんな状況でも冷静に判断ができるとは。溜息を吐いていただけの自分とは大違いだと向日葵は思ったが、気を取り直してその後を受け、説明を始めてしまうことにした。

 櫻子は小さく呻くと、しばらくしてから「ありがと」と小声で感謝を述べた。向日葵は説明を続けながらその少し申し訳なさそうな表情をちらりと横目で捉え、密かに満足した。
 向日葵による一通りの説明が終わった。その話の中では箱は櫻子の家由来であるというニュアンスであったが、櫻子はこれ幸いとそのまま流すことにした。

「じゃあ櫻子ちゃんも何がこの中に入っているのか知らないんだ?」
「うん。でもなんか、すごいものだよ。絶対!」
 あかりの疑問に、憶測に過ぎないはずの意見を断言する櫻子。しかし、櫻子の中ではその認識は疑いようのない事実にまでなっていた。
「よし! 悪いがすぐに開けさせてもらっちゃうよ!」
 事情を理解したところで、京子が真っ先に手をかけた。

 ちなつも興味津々な様子で手を伸ばしかけていたが、先を越された形になり、唇を尖らせる。
「またそんなこと言って……寄木細工って確か、多いやつで開けるまでに百手以上かかるんじゃなかったか?」
「結衣先輩の言うとおりですよ!」
 一応突っ込む結衣。ちなつは即座に結衣を持ち上げつつ、憎まれ口を叩いた。
「まあまあ。ちなつちゃん……これでも飲んで」
 あかりが麦茶を注ぎ足して、ちなつをなだめる。
「どうも!」
 拗ねた様子で湯のみを受け取るちなつ。他のメンバーは京子に箱を弄らせておいて、手順をどうやって探るか話し合い始めた――

 

 

 箱の大きさやデザインは諸説あるんですが、まああそこに置いてあったのはあんまり朽ちた感じじゃなかったんでしょうね。あと血が滲み出た跡もなかったのでしょう。そしてお札は剝されているんですね……持ち出したときに、櫻子の手によって。