無気力に細切れに11
翌朝、気分晴れやかに家を出た櫻子は一転、直後にひどく落胆した。しかしなんとか、どこかでそんな気はしていたのだと自身を落ち着け、静かに門の傍で向日葵を待った。
遅刻ぎりぎりまで待ったが、結果は芳しくないものだった。
何度か向日葵の家の前まで行ったが、結局チャイムを鳴らすまでには至らなかった。今この場にいないということは、まだ体調が回復していないことにほかならない。
――学校終わったら、また来るから。
櫻子は静かにその場を後にした。
朝のホームルームにて、今日は向日葵に続いてあかりも欠席したということが知らされた。最後に先生は「休みの疲れが出てくる時期だから体調管理には気をつけるように」と言って締め、一日が始まった。
長期休暇を引きずっていた気だるい雰囲気も徐々に薄れ、教壇に立つ先生の声もいつもの調子を取り戻していた。しかし、櫻子はそんな授業のことはもちろん、休み時間も上の空で終始話しかけづらい雰囲気を振りまいていた。
「こんにちは。櫻子です」
とにかく向日葵に会うことさえできればと急いで帰途についた櫻子は、すぐ隣にある自宅の門をくぐることなく、向日葵の家を訪れた。もはや一刻の猶予もないといった心持ちだった。
インターホンに向日葵の母が出て、しばらく。櫻子はいつもの何倍も長く待たされたように感じていた。
「ごめんね。お見舞いに来てもらって悪いんだけど――」
どうも向日葵の体調は相当悪いらしかった。医者にかかったところ疲れからくる風邪だろうとの診断だったらしいが、うつすと悪いからと家に上げてもらえなかった。
失意のままに帰宅すると今日は珍しく誰もいない。櫻子は冷房のスイッチを入れ、ふらりとソファに倒れ込んだ。
今日の櫻子を支えていたものが崩れ去ったのだ。見舞いもできないのであればあとは待つしかない。そして横になったまま、何を考えるでもなくただただそこに存在していた――
「ただいま。あれ、ひま子んとこ行かなかったのか?」
「うつしちゃうから駄目って言われて……あれ、ねーちゃん? もう帰ったの?」
櫻子が気づくともう撫子が帰宅するような時間だったが、無感動にそれを認識しただけだった。ひどくがっかりしただけでこの有様だ。時間感覚が虚ろで生気が感じられない。
「『もう』って櫻子……あんたこそ、『もう』うつってるんじゃないの? 週末までに治しときなよ」
「うーん。明日は治ってるといいけど……調子狂う……」
「いや、ひま子の体調は……ああ、そうだね。治るといいな」
「うん……」
撫子は、そんな櫻子に一瞬優しい顔をしたが、すぐ真顔に戻ると部屋を出ようしたところでふと立ち止まった。
「そうだ。訊いてなかったけど明後日は家にいるの? それとも友だちんとこ?」
「……向日葵が良くなってなかったら帰る」
「そう。じゃあ出かけてくるから」
「うん」
ひらひらと手を揺らして撫子は部屋を後にした。櫻子は再び無気力感に襲われそうになったが、人と話したことで気分はいくらか落ち着いていた。
――向日葵の話をしたからかな。そうだ、メールぐらいなら。
そんな思い付きに少し活力を得た櫻子は、携帯電話を取り出して向日葵にメールを送る。
「はい、送信っと。よし!」
櫻子は勢いをつけて立ち上がると、途端に腹が鳴った。
「う……なんだかおなかすいたな。給食残さなきゃよかった」
何か食べるものはないか。いやまずは飲み物だなと櫻子は台所の方へとふらふら歩いて行った。
これね、大抵の人はカレンダーにらめっこしながら読まないだろうし、気付かない話ではあるのですが、結局最後まで明確には触れ……いや、触れるか。じゃあ、いわないね(鬼悪)
……と思ったんですが、今の体裁だと日付がわからないですかね。これは失敗したなあ。始まりの章のタイトルが「九月一日(日) - 九月の初め、日曜日の朝」なのですよね。本当は。
ちなみにこれは『五月の初め、日曜日の朝』の文字りで、各章の題はすべて国語の教科書に掲載されていた教材のタイトルの文字りだったのですねぇ。あまりに下手なものもあるので今まで言えなかったのだ……。
大造じいさんととかきつねの窓とか素顔同盟とかそういうのね。
以上ささやかなネタばらしでした……