たしかに正しいけど、その通りだけど。

ブログじゃないという体でまとまった文章を置いておきたい場所

くまみこのはなし2

2.

 

 東北の夜でも、この季節になれば熱帯夜近くの気温となる。

 就寝時には薄手のタオルケットを掛けるくらいで十分な日も多い。

 今日は特に蒸し暑い夜だった。

 時刻は午後10時半過ぎ。しばらく前から、部屋の外に佇んでいる影があった。

 それはヒトの形をしているようだが、その立つ廊下には窓がなく詳細な姿を伺い知ることはできない。

 それは戸にぴたりと張り付き、中の様子を窺っているように見えた。

 戸の中ほどには木で作られた「まちちゃんのおへや」と書かれたプレートが掛けられている。

 それはじっと息をひそめるようにしてそこに微動だにせずいたが、やがて音もなく戸を引き、室内に滑り込んだ。

 それは中に入ってすぐの所で一度動きを止めた。

 深く、大きめな寝息が、規則正しく続いている。

 その様子を確認したのか、それはふたたび動きはじめた。徐々に室内を進むにつれ、部屋の窓から入り込んだわずかな月明かりに照らされて、ほの白いその姿がおぼろげに浮かび上がる。

 その印象は、ちぐはぐな幽霊画のように奇妙だ。

 漆黒の頭髪のように見える部分は闇に透けて境界がはっきりしないが、それの上半分にまとわり、縞状に流れている。ごく薄い襦袢が体に張り付くようにまとわれている。

 奇妙なそれは部屋の中央で眠りにつく少女にだんだんと近づく。そして傍らに寄ると小さく屈んだように見えた。座っているのかもしれない。

 それは、またその場所でしばらく動きを停めたまま、少女の顔に目を向けた。

 まるですぐ先の獲物を茂みの中から吟味する獣のような雰囲気だった。

 少女はそれに背を向けるように、横向きで膝を曲げ、安らかに寝息を立てている。

 それからそれは、一度足先に顔を向け、じりじりとまた上方にねめつけていく。

 染みひとつない小さな足。丸いくるぶし。控えめな内くるぶし。緩くたわんだラインのふくらはぎの、その曲線の頂点よりわずかに手前までズボンタイプのパジャマの裾が隠している。装飾の少ない、そのゆったりとした裾が、少女の細い脚を強調している。パジャマのトップスは長めで、裾がふとももの中腹辺りでふわりと広がりを見せている。わずかに襞を湛えたその裾が少女の可憐さを印象付ける。

 ほとんど乱れていないタオルケットが股下の浅いところまでを覆い隠している。その端から腰骨の一番高いところを越え緩やかに下る稜線は、その下の華奢な腰回りを容易に想像させる。

 それから脇腹、腋下を通り肩峰の尖りをにらみ、二の腕に差しかかると、再びその柔肌が夜気に晒されていた。袖は短めで、やはり縁に目立つ装飾はなくシンプルだ。どこまでも滑らかであろうことが、見た目でよくわかる、そんな肌理を惜しげもなく露わにした両腕は柔らかい角度で曲がり、わずかにもつれ合う。

 そしてその手。それはタオルケットの端を緩く掴んでいた。その様子はどこまでもあどけなく誘うような形をしている。ふくふくとした手は目に入れるだに儚く、その透けるように薄い肌が稀少で高価な紗を思わせる――

 この日のそれは、観察にたっぷりと時間をかけていた。

 それからわずかに震えながら身を屈め、顔を少女の耳元に近付ける。

 黒く細い束がはらりと重力に従い流れ落ちて少女の顔に掛かったが、それは間髪を入れずに何やらぼそぼそと繰り返しつぶやいた。少女は顔に掛かるものを払う素振りも見せず、もちろん目覚めもしない。

 それからそれはすうっと体を起こすと、タオルケットの端に手をかけ、大胆にめくり上げた。

 タオルケットと少女の間に蓄えられていたわずかな熱が逃げていく。

 それは慈しむようにして少女の顎を撫でる。少女は身じろぎひとつしない。それからゆっくりと自らを焦らすかのようにして少女の背中に寄り添い、横たわった。少女との体格差が如実に表れている。少女はそのまま背後から、包み隠すように抱きすくめられた。

 先程までの息を殺さんばかりの慎重さなどは微塵も感じさせない行為。それを少女は安らかに受け入れ続ける。

 やがてそれは少女の体の感触を存分に味わいながら自らを慰めはじめた――

 

 

 

つづく*1

*1:書き忘れてましたけどこういう感じの雰囲気ありなやつです


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