謎のスキット2
鉄製のベンチに腰掛けて話す面々の間には、祭りの後特有の燻る残り火のようなじんわりと興奮した空気が横たわっている。そこに涼しげな秋の虫の音色が差してえもいわれぬ絶妙なバランスを取っているように感じられた。
「何度も観てきたけど、やっぱりこう、神妙な感じになっちゃうよね」
赤い髪の少女が中空に視線を投げかけながら呟いた。
「やっぱり観客側として観ると一味違うものなんだ?」
座っているベンチの縁に両手を添え、両脚を振り上げながらバランスを取っていた小さな少女が、すかさず反応を返した。ぱっと赤い髪の少女がそちらに振り向く。髪が動きに合わせてふわりと広がる。
「あ、それ! ちょっと! 胡桃のせいで明日また宇夫方さんに訊かれそう」
「シロが、ね」
小さな少女がわずかに笑みを湛えつつ、白い髪の少女の方を見遣った。
「……?」
白い少女は黙って少し困ったような風だ。
黙っている少女を見ながら赤い髪の少女がその言葉を受けた。
「彼女も健気ねーほんと。シロもちょっとは相手してあげればいいのに」
「……だるいって答えると、いつも特にしつこくもなく納得するし、いいかなぁって」
「悪い女だ」
「魔性の女だ」
「ヒドい言われようだ……」
くすくすと、小さな声を立てて小さな少女と赤い少女が笑う。
「そういえばさ、エイスリンはさっきも言ってたけど、神社とか寺とかそういうの、好きなんだよね……いつから知ってた?」
ふいに赤い髪の少女が問いかけた。
「うーん……インハイから帰ってきて、私たちは勉強に本腰入れ始めて……そのぐらいかなあ」
小さな少女が答える。「シロは?」と赤い少女が振ると、白い少女は少し考えてから答えた。
「結構前から……」
「そういう話とかしたの?」
「エイスリン、結構そういう絵をノートとかに描いてる」
「へぇー……そっか、後の席だもんね」
小さな少女がこともなげに話した。赤い少女はわずかに神妙な面持ちとなっていたが、次の瞬間には表情を一変させた。
「エイスリンもまあ、日本の文化に興味があったから留学してきたんだろうしね、うん」
「そんなこと言ってたなぁ。交換留学のパンフレットにあった写真がどうとか」
「そうなんだ……」
赤い少女がすっと融けるような声音で相槌を打つ。それを聞きながら、小さな少女は明後日の方向に目を向けていたが、少し動きを止めると、ふたりの方に向き直って表情の乏しい顔で言った。
「……ところで、終電って何時だっけ?」
「あ……」
皆が辺りを見回すと、見物客はすっかり疎らとなっている。
「うわ、もう8時だよ?!」
赤い少女が携帯電話を見て悲鳴を上げる。迷子になったかと一同心配し始めた頃、ようやく目を引く二人組が戻ってきたのだった。