謎のスキット
ふと背の小さな少女がこんなことを言いだした。
「先生ってさ、どうしてうちの学校に来たんだろうね」
それを受けて赤い髪を切り揃えた少女が答えた。
「どうしてって……確かに。言われてみるとなんでだろ」
「なんかこっちに来る前にトヨネのところに行ってたっていうから、やっぱり部活の顧問をしたくて赴任先を探してた、とか?」
なるほど、と赤い髪の少女が頷く。
「こっち着いたその日にいきなり部室に来たもんね」
「で、3人ともあり得ないトバされ方したという」
小さな少女の言葉に、みんなが苦笑した。
「校長の昔馴染みとかいう話だけど……」
今まで黙っていた白く豊かな髪の少女が、椅子に浅く腰かけ、体を投げ出した体勢で呟く。彼女が話すと不思議と皆が注目した。それはあたかも空気が支配されたかのようだった。
「……いいや。だるくなってきた」
「いやよくないでしょ」
間髪を入れず赤い髪の少女がツッコミを入れる。それと同時に空気が一気に弛緩した。どうやらこのやり取りはいつものことのようで、話題を放り投げた彼女にそれ以上の追求はされなかった。
「あーもー限がないから! そろそろ勉強に戻る! ほらシロしゃんとして!」
「掴まるところがなくてダメ……あぁ……」
小さな少女の発破も虚しく、ずるずるとずり落ちながら後退していく白い少女を、赤い少女が嘆息しながら取り留める。
「もう……これだけだらけられると、逆にちゃんとしなきゃってなるわ。その体勢の方が疲れるでしょ、シロ」
「どうにも身が入りませんなぁ」
「みんなそうだよ!」
言いながら、小さな少女は先ほどまでの思考を再開した。
部活の指導者としてチームをインハイに導きたいならこんな辺鄙なところに来なくても、もっと強豪校はいくらでもあるし、そもそも最初は頭数すら揃っていなかったのだ。じゃあ部活の指導はついでだった? ……いや、しかし……麻雀が強いからってトヨネを連れて……。
考えているうちに赤い少女が白い少女をしっかりと席に着かせることに成功していた。それを機に小さな少女も思考を畳むことにする。
これまでずっと一緒だった3人の関係は、ここ半年ちょっとの間に激動の展開を迎えて、今再び3人だけの凪いだ状態に戻りつつある。しかし、またほんの数か月先には――
畳む折にふと一番触れてはいけないと思っていた事柄に触れてしまったことを、小さい少女は下唇の内側をわずかに噛んでやり過ごした。